第21回 第一線監督者の集い[福岡]会場の様子

第21回 第一線監督者の集い[福岡]開催レポート

「監督者自身が何に向き合い、どのように未来を変えたいか」

会 期
2025年12月3日(水)・4日(木)
会 場
福岡国際会議場 多目的ホール

名古屋で1982年にスタートし、定期開催されてきた「第一線監督者の集い」。福岡での開催が始まってから、こちらも20年を超えました。

製造現場の第一線で活躍する監督者たちが、日頃から取り組んでいるさまざまな改善活動の成果や事例を発表し、情報交換を行う場となっています。参加者同士の交流も活発に行われ、組織づくりや人材育成などの参考になることはもちろん、参加者自身のモチベーションアップにもつながると、毎年高い評価を受けてきました。

第21回 第一線監督者の集い[福岡]では、2025年12月3~4日の2日間にわたり15名の第一線監督者が登壇しました。近年のトレンドとして、ダイバーシティに関する取り組みや海外における外国籍スタッフのマネジメントに取り組んだ事例発表も多くなっています。各現場を取り巻く環境変化を感じさせる一方、監督者に必要な役割や、人を動かすために必要な視点には普遍的な共通点も見られるのが興味深い点です。

最優秀事例賞の発表内容

15名の発表は初日8名、2日目7名に分けて行われ、それぞれから最優秀事例賞が選ばれました。どの発表も甲乙つけがたい素晴らしい内容でしたが、参加者から最も多くの支持を集めた2事例のダイジェストをお届けします。

初日コベルコ建機 株式会社 矢野 雅大さん 「現場監督者を悩ます外国人との分かち合い活性に向けて」

矢野さんが入社したのは20年前、大垣事業所大垣工場ミニショベル製缶作業者としてキャリアをスタートさせました。製缶溶接職場には日系ブラジル人が多く、ポルトガル語で話しかけられる日々を過ごした経験があります。

矢野雅大さんの発表の様子
コベルコ建機 株式会社 矢野 雅大さん

新たに多治見工場を立ち上げるにあたって直面した外国籍作業員との協働が本発表のストーリーです。量産開始時、作業者の約8割が外国籍となり、通訳不在のまま稼働を開始した結果、5Sや基本ルールの徹底が進みませんでした。その結果、溶接欠陥や組み付け間違いなどの品質不具合が多発し、他拠点からクレームを受ける状況になっていました。さらに、生活面でも近隣トラブルが続き、管理者が対応に追われる状況が重なってしまいます。

追い打ちをかけるように、工場近隣の公共地でベトナム人の作業員たちが無断でパクチーを栽培していたことが発覚しました。矢野さんが思わず漏らした「なんでパクチーやねん」という戸惑いと怒りの言葉。これは異文化を理解できない、理解しようと努めない自分自身の中にある「壁」の存在に気づくきっかけにもなりました。

そこで矢野さんは、職場の常識や価値観を集団として理解してもらう土台づくりに取り組み、母国語レッスンをきっかけに挨拶、対話を増やしました。そのうえで、交流機会の創出や通訳アプリの活用を通じて、価値観や動機を把握し、国籍別対応ではなく個々が何を大切にして働くのかに焦点を当てた関わりへと移行します。

外国籍作業員との交流の様子

交流を深め、個々人の付き合いが増えた結果、外国籍の技能生も、日本人も同じく家族や友人を大切にする「同じ人間」であると相互理解が深まっていきました。異文化の象徴とも言えるパクチーの栽培を一度はやめさせたものの、ふるさとを懐かしむスタッフたちの思いを理解した矢野さんは、自ら工場の管理職に働きかけて許可を取得します。工場内の緑地での栽培が認められたことは、ベトナム人の作業員たちのモチベーション向上にもつながりました。またインドネシア人のイスラム教徒のために、祈りの場も整備するなど、異なる文化への理解、受容の姿勢を形にしたことで、作業員が自発的に5Sやルール遵守へ動き始めたのです。近隣とのトラブルも激減していったと言います。

日本人との心理的な距離が縮まった結果、相談が増え、改善提案も生まれる状態へ転換しました。結果として、品質面でも再発防止が進み、組立・出荷前の不具合は、7割以上も減少。現場は一体感のある生産・改善活動へと変化していきました。

工場立ち上げ当初は、外国籍社員との関わり方やルールやマナーの指導、風通しの良い職場づくりに試行錯誤を繰り返したものの、矢野さんは諦めることなく真摯に取り組みを続けました。その結果、異文化を尊重し合い、一体感のある職場環境を築き上げることができました。

2日目住友ゴム工業 株式会社 倉内慎一郎さん 「アイシャドウの作業員が夢を話せる職場へ」

倉内慎一郎さんの発表の様子
住友ゴム工業 株式会社 倉内 慎一郎さん

タイヤの材料であるゴムを製造する工程は、夏場は暑く重量物を扱う過酷な職場です。生産能力に余裕がなく、1日の生産を無事に終えることだけで頭が一杯の状態でした。そうした職場で職長となった倉内さんもまた、改善が進まずもどかしさを感じる日々を送っていました。カーボンなどの粉じんにより作業者の目の周りが黒く汚れ、洗顔しても落ちない環境で、家族から「アイシャドウをしているみたい」とからかわれた出来事は、目の前の業務に追われ、将来を語る余裕のない自らを省みるきっかけとなりました。

職長としての会議や業務に追われ、たった一人の力では成果が出ないことに焦っていた倉内さんは、期待の若手から退職を告げられ、ショックを受けます。「一人の百歩より百人の一歩」という上司の言葉に、すべて一人で抱え込もうとしていた自らの限界を痛感し、チームで成果を出す方向へ舵を切ったのでした。起点となったのが、3年後、5年後、10年後にありたい姿を描く「ビジョンシート」です。残業が減り、早く帰宅できるなど、生活の質にも目を向けた職場ビジョンを共有することで、メンバーの意識をそろえていきました。

チームでの改善活動の様子

そのうえで、倉内さんは課題ごとに役割分担を行い、小グループのリーダーを任命しました。改善できた人を称える「サンキューマップ」と、課題を成長の機会として見える化する「チャンスマップ」などモチベーションを向上させる仕組みも次々に導入しました。改善が進まない班を見つけたときには、改善活動のリーダーを班長以外が務めるように仕組みを変える助言を行った結果、班員が自発的にミッションを前進させ、関係部署をも巻き込むほどの主体性を発揮するようになりました。

若手の実行力とともにベテランの知恵やアドバイスが融合し、改善の好循環が加速し、現場には前向きな空気が広がりました。重要なのは手法そのものではなく、背景や思いを共有したうえで適切なタイミングで使うことです。こうした積み重ねにより、現場は夢を話せる職場へと進化していきました。

リーダーとして結果改善を導けるようになると、さらに次世代へのバトンタッチにも着手。今後の職場の中心を担う若手にも、3~10年後にありたい姿を書き出してもらったところ、たくさんの具体的な夢が表出しました。目標を明確にすることで、日々の作業者の顔が明るく働けていることが何よりもうれしいと語る倉内氏は、職場環境全体の改善に向けて走り続けています。

リーダーたちが示したキーワードや手法

井手尾貴予さんの受賞姿

紹介した最優秀事例以外に、他の発表者からも実践的なキーワードや手法が数多く共有されました。多くの発表者たちが「実践してみたい」と口をそろえたのは、TOTOの井手尾 貴予さんが紹介したインタビューシートを用いた対話手法です。形式的な面談ではなく、日常の思いや困りごとを引き出す設計により、部下一人一人の価値観や背景を理解する起点として活用されていました。

また、日産自動車九州の吉浪 寿朗さんが紹介した「情熱アタックのバレーボール理論」は、役割を超えた声掛けやフォローによってチーム全体の成果を高める考え方として印象に残ったという声が参加者から多く寄せられました。フジテックの山之内 嵩人さんは、指示・命令型ではなく支援に徹するサーバントリーダーシップの実践を発表し、監督者の関わり方そのものを問い直す内容にも注目が集まりました。

本田技研工業の神澤さんの発表

本田技研工業の神澤さんや日立製作所の國舛さんも、異国、異文化での一方的なコミュニケーションに課題を感じ、自らの姿勢を変えることで難局を突破したという柔軟な思考と実行力の重要性について言及。

さらに、ソニーセミコンダクタによるDiSC分析の活用や、オムロン太陽のユニバーサルものづくりの実践など、個々の特性や多様性を前提としたアプローチも多く見られました。共通していたのは、特別な制度や仕組みではなく、現場に根差した工夫を通じて人と組織の力を引き出そうとする姿勢です。こうした手法は、業種や職場を超えて応用可能なヒントとして、参加者の気づきにつながっていました。

発表の様子 参加者同士の交流 発表の様子 発表の様子

コーディネータの眼から

コーディネータとして、1名ずつの発表から他者が学び、真似できるポイントを語った、日本能率協会コンサルティング 生産革新コンサルティング事業本部シニア・コンサルタントの石山 真実さんには、今回の発表はどのように映ったのでしょうか。2日間の総評をお聞きしました。

石山真実さん
コーディネータ:日本能率協会コンサルティング 石山 真実

自分自身が考え方や向き合い方を変える姿勢に感銘

第一線監督者からの報告・発表を聞いての総括をお願いします。

今回の発表を通じて浮かび上がったのは、優れた第一線監督者に共通する姿勢です。それは、部下や現場を変えようとする前に、まず自分自身の関わり方や考え方を見直すことから始めている点にあると思います。この考え方があるリーダーは、相手を責めるのではなく、自身の言動やアプローチを問い直します。状況を打開しようと考えるからこそ、まず自分を変えるという姿勢が、現場変革の出発点となっていましたね。

相手の特性や価値観に合わせた向き合い方も多くの発表に共通していました。古くは集団として管理・指導する手法が主流でしたが、昨今はメンバーそれぞれが何にやりがいを感じ、何に不安を抱えているのかを理解したうえで関わる姿勢が重視されています。多様性を重視しハラスメントには厳しい目が向けられる中で、監督者にはより繊細なコミュニケーションが求められていると思います。

メンバーの数だけ個別の対応が求められるとなると、監督者は大変ですね。

インタビューの様子

その部分はあると思います。しかし一方で、マネジメントの普遍性もあると思います。海外での奮闘、外国籍作業員との協働を扱った発表はいくつもありましたが、人種や国籍によって対応を変えるという考え方は示されていませんでした。文化や風土の違いを受け止め理解しつつも、属性で判断するのではなく「個としての相手」を起点に歩み寄りながら関係を築くことの重要性が共有されました。日本人であっても、外国籍であっても変わらない点を見抜き、踏まえることも重要ですね。

つまずきからの立ち上がりにこそある学びの本質

どの発表もBefore/Afterが丁寧に語られていたのが印象的です。

それがこの「第一線監督者の集い」の一番の魅力ではないでしょうか。ここで披露される成果の前に、考え方が重要だと思います。そのすべてが現場での試行錯誤を通じて培われてきたものです。製造現場で直面する課題は、必ずしも一度の工夫で劇的に改善するものばかりではありません。

ただ単純に成果のよしあしを評価するのではなく、行き詰まりを感じ、それを乗り越えても再び壁に直面し、それでも前進を続ける過程がすべての発表で描かれていましたね。たまたまうまくいったとか、はじめから順調だったなどではなく、こうした生々しい苦労や改善のプロセスが具体的に語られるから、参加者は自身の経験に重ね合わせて学べるのだといつも感じています。

製造業以外のマネジャーが聞いても学びになる話も多くありました。

人と人がかかわる職場に共通する普遍的なマネジメントにおける本質に、業種は関係ないですね。最初の一歩をどう踏み出し、どのように立て直したかは、製造業に限らず、すべての管理職、リーダー、マネジャーに聞いてほしいと、私も思います。

日本の製造業の底力を広く知ってもらいたい

まだ参加した経験のない方に向けてメッセージはありますか。

私が初めて「第一線監督者の集い」をコーディネートした時の衝撃は忘れられません。こんな高レベルな監督者がこんなにいるのかと驚き、感動しました。これはすべての監督者と、その監督者を育てる管理職、日本中の人に聞いてもらいたいと思いました。

石山真実さんの総評
最優秀事例賞の発表後、壇上で喜びの声を聞く石山さん

しかし日々、さまざまな現場を訪れていますが、このレベルの監督者にはほとんど会ったことがありません。せいぜい5%、もっと少ない割合かもしれません。つまり95%以上の監督者は、こういう優秀な監督者が実在することを知らずに悩んだままになっています。だからこそ、もっと多くの人にこの存在を知ってもらいたいのです。

しかも皆、スーパーマンではありません。あるきっかけと自分の努力で、ああいう監督者になっていった方たちであり、誰もが優れた監督者になれる可能性があるのです。ここで受けた刺激をもとに実践し、ぜひその結果をまた発表していただき、絆をつないでいくことで、日本の製造業はもっと強くなれると私は確信しています。

情報交換会や交流会でも笑顔が並ぶ

交流会の様子1

発表後には、参加者同士が学びを共有する交流の場が設けられました。「共感カード」を用いて、印象に残ったポイントや自らの現場と重ねた気づきを言語化し、互いに共有することで、発表内容をより深く理解する機会となっています。交流会では、企業や業種の枠を超え、第一線監督者同士が日常の課題や工夫を語り合う場面が多くありました。こうした対話を通じて、会期後も相談し合える横のつながりが生まれています。

情報交換会の様子1 情報交換会の様子2

過去には参加者として学んだ監督者が、後年発表者として登壇するケースもあり、発表者からは「発表によって自身の振り返りができた」「発表内容を後進育成に活用できた」という声も挙がっています。学びが人と人との関係を通じて定着していく点も、この大会の大きな特長です。

まとめ ~日本の製造業への課題提起と展望~

日本の製造業を取り巻く環境は、円安やインフレ、DX・AI活用の加速、人手不足や多様性対応など、複合的な課題に直面しています。これらの課題に対して、経営や技術戦略が優先的に注目されがちですが、最終的に製品や価値を生み出すのは、現場で働く一人一人の力にほかなりません。だからこそ、課題が山積する今の時代において、ものづくりの基盤である製造現場をいかに強化するかが、重要なテーマになります。

その現場の活力を大きく左右するのが、第一線監督者の存在です。監督者の関わり方次第で、現場は停滞もすれば、自律的に課題へ挑み続ける組織にもなります。人手不足や多様な価値観が混在する状況下では、従来の画一的な管理では限界があり、一人ひとりの力を引き出すマネジメントが不可欠です。大会で共有された実践は、困難な環境下でも現場が前進するための具体的なヒントを示しています。

集合写真1 集合写真2

監督者が何に悩み、どのような支援や関わりによって成長してきたのかを知ることで、管理職が上司としての関わり方を見直すきっかけにもなります。困難な状況を乗り越えてきた現場の経験を共有することで、同じ悩みを抱える監督者の背中を押す力となるでしょう。次回の集いでも、多くの現場の声が集まり、学びの輪がさらに広がることが期待されます。